東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1430号・昭27年(ネ)856号 判決
控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用は附帯控訴人の各負担とする。
二、事 実
控訴(附帯被控訴)代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、又附帯控訴につきこれが棄却の判決を各求め、被控訴(附帯控訴)代理人は本件控訴を棄却するとの判決を求め、附帯控訴として「原判決主文第二項を取り消す。控訴人が昭和二十四年一月十二日茨城県行方郡玉川村大字藤井字大久保三五七番田一反四畝十七歩同所三五八番田七畝二十九歩について為した買収処分は原判決主文第一項の掲記の部分に関する限り、その無効たることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも附帯被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の供述は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。なお当審において、控訴人(附帯被控訴人以下同じ)代理人は「本件農地はその全域に亘り、昭和二十年十一月二十三日現在において訴外飯島あきが権限により適法にこれを耕作していたものであつて、本件売渡処分の前提たる買収処分は、同人の請求により樹てられた買収計画(自作農創設特別措置法第六条の二による遡及買収)に基くものであり、右買収計画も買収処分も共に確定し、法律上最早これが取消又は無効宣言を求める途は存しないのである。既に買収計画が法定の資格を有する者の請求に基く適法のものとして確定し、何人もその効力を争い得ざるに至つた以上、同法施行令第十七条第一項第一号の規定に則つて為す売渡処分の相手方たるべき者は、前同日現在において買収農地につき耕作の業務を営む小作農として有権的に確定された右飯島あきを措いて他にこれを求むべきでない。即ち該規定は買収農地売渡に際し先に遡及買収請求の適格者として認められた者が、果して前同日現在における正当耕作者と認むべきや否やを改めて審査すべきことを命じているものと解することはできないのである。然るに被控訴人は自己が前同日現在の耕作者であつて飯島あきはこれに該当しないことを理由として、本件農地売渡処分の取消を求めるのであるから、これ畢竟行政処分の確定力に反する事項を主張することに帰着し、その許されぬことは明かである。」と述べ、被控訴人(附帯控訴人以下同じ)代理人は「右控訴人の主張はこれを否認する。農地買収処分が法定の資格なき者の請求による買収計画に基いて為されたときは該処分は、その有効要件を欠き取消の裁判を経るまでもなく当然無効と解すべきであり、少くとも原判決主文第一項掲記の部分に関する限り、その買収処分には、無効原因となるべき程度の重大且つ明白なる瑕疵が存するのであるから、特にこの部分につきこれが無効たることの確認を求める為め本件附帯控訴に及ぶ次第である。」と述べた。(証拠省略)
三、理 由
当裁判所は本件につき更に審究を遂げ、結局原判決理由に詳細説示したと同様の事実の認定法律上の判断を為し、被控訴人(附帯被控訴人)の本訴請求は原判決主文第一項掲記の範囲においてこれを正当として認容すべく、その余は失当につきこれを棄却すべきものと判定した。よつてここに原判決の理由全部を引用する。
控訴人は本件農地の買収処分は、昭和二十年十一月二十三日現在においてこれにつき耕作の業務を営む小作農たる訴外飯島あきの請求によつて樹てられた買収計画に基くもので、右買収計画は勿論買収処分も既に確定し、何人もその効力を争い得ざるに至つた以上、同訴外人が前同日現在におけるかゝる小作農たることはこれにより有権的に確定されておるのであるから、被控訴人が本訴においてこれを否定し、被控訴人こそ該時期における正当耕作者として本件農地の売渡を受くべき適格者であると主張するのは、行政処分の確定力を無視するもので許されぬところであると主張するけれども、該主張はこれを採用することはできない。農地買収計画は単に国の買収すべき農地の範囲、その買収の時期及び対価を決定するものであり、買収処分は右計画に基き国が当該農地の所有権を取得する効果を生ぜしめるに過ぎず、これが行政処分として確定するときは、該処分の目的とする右効果の発生は最早これを争い得ないことになるけれども、自作農創設特別措置法第六条の二の規定により買収計画の樹立を請求した者が、同条所定の時期において当該農地につき耕作の業務に従う小作農であつたか否かということは、本来客観的に定まるべき事実であつて農地委員会の左右しうる事項ではない。該請求を受けた所轄農地委員会が買収計画を立てる前提としてこの点の審査を遂げた上買収計画を定めたからとて、それは当該買収計画自体の内容を為すものでなく、従つてかゝる事項にまで右買収計画ないしこれに基く買収処分の確定力が及ぶべき筈はないのである。即ちその者が事実同法所定の要件を具えた小作農に該当しない以上、買収計画若しくは買収処分の確定と共にかゝる小作農であつたことに転化することはないのであつて、買収農地売渡の相手方たるべき者は飽くまで法定の時期において当該農地につき実際耕作の業務を営んでいた小作農であるべきであり、常に必ずしもかゝる小作農であるとして買収計画樹立の請求をした者と合致せねばならぬことはない。このことは又同法施行令第十七条の規定の文理上よりするも明かであつて、要するに原判決の同旨所説は正当といわねばならぬ。次に被控訴人は本件農地の内少くも原判決主文第一項掲記の部分に関しては、本件買収処分は明かに法定の時期においてこれが耕作の業務を営む小作農ではない飯島あきの請求に係る買収計画を前提とするものであるから当然無効であると論ずるけれども、この程度の瑕疵は形式上確定した行政処分の効力を当然に否定せぬばならぬ程の重大且つ明白なものとはいい得ないから、右主張も採用に値しない。
然らば原判決は相当であつて、本件控訴並に附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十五条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 薄根正男 岡崎隆 奥野利一)
原審判決の主文および事実
一、主 文
被告が昭和二十四年八月六日茨城県行方郡玉川村大字藤井字大久保三五七番田一反四畝十七歩、同所三五八番田七畝二十九歩についてなした売渡処分は右二筆の田のうち「東より西に通ずる太い畦道の南側に位ずる田五枚及び右畦道の南側に位し北から南に流れる用水に接する田一枚の内右畦道に沿う幅二尺の部分」に関する部分にかぎりこれを取消す。
原告のその余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用はこれを三分しその一を原告の負担としその余を被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告が昭和二十四年一月十二日茨城県行方郡玉川村大字藤井字大久保三五七番田一反四畝十七歩及び同字三五八番田七畝二十九歩についてした買収処分の無効であることを確認する。被告が右土地につき同年八月六日にした売渡処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、その請求原因として
「一、訴外飯島あきがなした遡及買収請求に基いて訴外玉川村農地委員会は茨城県行方郡玉川村大字藤井字大久保三五七番田一反四畝十七歩、同所三五八番田七畝二十九歩及び同所三五九番田二十歩について昭和二十三年十月十七日買収並びに売渡計画を樹立し公告したので原告は同委員会に対して同月二十二日右買収計画並びに売渡計画についてそれぞれ異議の申立をなしたところ、買収計画の異議に対してはその後何等の決定もなかつたが、売渡計画の異議に対しては却下の決定がなされたので原告は更に同年十一月十一日訴外茨城県農地委員会に対し訴願を提起した、これに対し同委員会は同年十二月二日訴願棄却の裁決をなし右裁決書謄本は昭和二十四年五月二十八日原告に対し送達された。これよりさき同年一月十二日前記土地の所有者である訴外関野吉則に対し買収令書の交付により買収処分がなされている。そして右売渡計画に基き飯島あきに対し同年八月六日売渡通知書が交付されて被告の売渡処分がなされた。
二、しかし乍ら前記買収計画には次のような瑕疵が存しこれは該計画を当然無効とする程度の重大な瑕疵であるから右計画に基いてなされた前掲買収処分も無効に帰する。
(一) 前記三筆の田はもと原告家の所有であつたが、明治十五、六年頃訴外関野吉則の先々代に対し売渡すとともに原告家において賃借小作し来たつたところ、原告先代の弟である訴外飯島佐内が昭和十九年三月十日応召するに先立ち原告先代飯島清喜に対し佐内が従来耕作して来た清喜宅に近接し清喜が耕作するのに便利な字岡田地内の一反六畝十九歩の田を佐内が帰還する迄清喜において耕作管理しその代り前記三筆の田を飯島あきに対し佐内が帰還する迄一時転貸しておくことをすすめたところ、清喜はこれに応じあきに対し右の田を佐内が復員した暁には清喜において何時でも返還を請求しうる旨の特約をなした上一時飯島あきに転貸した。そして佐内は昭和二十年八月下旬復員したので同年九月十六日同人において原告の代理人として(当時清喜は既に死亡し原告が若年にして家督続相していた)あきに対し三筆の返還を求めたところ同人はこれに応じ、茲に右転貸借契約は合意の上解除され、原告は昭和二十年十一月十月所謂一番耕いをなした次第である。右のように飯島あきは昭和二十年十一月二十三日現在既に本件田に対する賃借権を失つていたのであるから同人は遡及買収を請求する資格を欠き同人の請求によつて樹立された買収計画は違法である。
(二) 仮に昭和二十年十一月二十三日以前における前記転貸借契約の合意解除が認められないとしても、原告先代と飯島あきとの間の右転貸借契約は前掲のように己むを得ない事由に因る一時的なものであるから自作農創設特別措置法第五条第六号、同法施行令第七条、第十七条第一項第五号等の趣旨に鑑み飯島あきは遡及買収の請求をなし得ないものと解すべきである。
(三) 仮に右の一時転貸の事実が認められないとしても、本件田については飯島あきの申立により飯島佐内及び関野吉則を相手方とし水戸地方裁判所に係属した昭和二十一年(セ)第八七号耕作継続小作調停事件について昭和二十一年十一月十一日同裁判所により、原告元夫を利害関係人として、左記内容の決定がなされ、同決定は昭和二十三年一月三十日頃確定し、爾来原告は右決定の趣旨に従い、同決定において原告の耕作すべきものと定められた三五七番、三五八番の田の一部について耕作を継続して来た、従て右決定によりあきの耕作権が認められなかつた部分即ち右原告耕作部分については、自作農法第六条の二第二項第一号の法意に則り、あきの請求があつても玉川村農地委員会としては右の部分につき遡及買収計画を樹てることはできないわけである。
「一、相手方吉則は申立人あきに対し茨城県行方郡玉川村大字藤井字大久保三五九番田二十歩及び同所三五七番田一反四畝十七歩同所三五八番田七畝二十九歩の内東より西に通ずる太き畦道の北側に位する三枚の田並びに右畦道の南側に位し北より南に流れる用水に接する田一枚(但し右の田の内右畦道に沿う幅二尺の部分を除く)を一ケ年の小作料は第五項によつて定まる金額支払期毎年末の約で継続小作せしめる。
二、相手方吉則は利害関係人元夫に対し前項記載の三五七番田一反四畝十七歩、三五八番田七畝二十九歩の内前項記載の申立人あきに耕作せしめる部分を除いた残部全部即ち太い畦道の南側に位する田五枚及び右畦道の南側に位し北より南に流れる用水に接する田一枚の内右畦道に沿う幅二尺の部分を昭和二十二年度より小作料は第五項によつて定まる金額支払期毎年末の約にて小作させる。
三、申立人あきは第二項記載の田を本決定確定後七日内に利害関係人元夫に明渡す。
四、前項により田の明渡があつたときは遅滞なく申立人あき及び利害関係人元夫は協力して調停委員郡司宗衞又は同仲田亘の立会の下前記太い畦道の南側に位し用水に接する田の畦道に沿う幅二尺の部分と其の他の部分との境界を明確ならしめる為杭を打ち且つ申立人及び利害関係人の夫々耕作する部分の面積を実測する。以上の費用は申立人及び利害関係人において耕作田の実測面積に按分して負担する。若し申立人又は利害関係人の孰れかが協力に応じないときは其の一方は単独に調停委員の立会をもつて以上を実施し其の費用の内前記負担部分を協力しない者に請求することができる。
五、前掲三筆の田の小作料は一ケ年金百七十一円であるから右金額を前項により判明した申立人及び利害関係人の夫々耕作する田の実測面積に按分して同人等の小作料を算出する。
六、申立人及び利害関係人は第一項乃至第五項の決定以外に互に将来何等の請求を為さないこととする。
七、相手方佐内は第一乃至第六項の決定に異議なくこれを確認する。
八、調停費用は各自弁とする。」
(四) 仮に右法条の趣旨に該当しないとしても、あきの遡及買収請求は右の部分に関する限り信義に反するものと認められる場合に該当するから、自作農法第六条の二第二項第二号により遡及買収計画を樹てることはできない。
そして三五七番、三五八番の二筆の買収計画中各一部につき前記のような違法がある以上、該二筆についての買収処分は全体として違法の処分として無効たるを免れない。
三、また前掲売渡計画には次のような違法があり、その結果同計画に基いてなされた前記売渡処分もまた違法である。
(一) 二所掲のように、前記三五七番、三五八番の二筆の田に対する買収処分は当然無効であるから、同処分の有効なことを前提とする売渡処分も亦違法である。
(二) 二(一)一所掲のように、飯島あきは昭和二十年十一月二十三日現在においては既に本件田に対する賃借権を失つていたのであるから、同人は第一順位に売渡をうけるべき資格なく、原告が第一順位の売渡相手方である、然るに玉川村農地委員会が原告をさておき、あきを売渡の相手方として樹立した前記売渡計画は違法である。
(三) 仮に飯島あきが昭和二十年十一月二十三日現在本件田に対する転借権を有していたとしても、前掲転貸借契約は応召という已むを得ない事由に因る一時転貸借であるばかりでなく、本件田については前記のような内容の調停に代る裁判がなされ、爾後原告は右裁判の趣旨に従い主文第一項掲記の田について耕作を継続して来た。従て自作農法施行令第十七条第一項第一号第五号等の趣旨に則り本件田について第一順位の売渡の相手方は原告であり少くとも右裁判において原告が耕作すべきものとせられた主文第一項掲記の部分については原告を売渡の相手方とすべきものである。にも拘らず地元農地委員会がこの措置に出でず本件田全部をあきに売渡す旨定めた前記売渡計画は違法という外ない。」
と述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として「原告主張の一の事実は買収計画に対する異議申立のあつた点は不知、その余の点は悉く認める、同二三の事実は原告主張の三筆の田はもと原告家の所有であつたが原告家は明治十五、六年頃飯島吉則先々代に売渡すとともにこれを同人から賃借小作して来たところ、昭和十九年これを飯島あきに転貸した点水戸地方裁判所昭和二十一年(セ)第八七号耕作継続小作調停事件につき昭和二十一年十一月十一日原告主張のような内容の調停に代る裁判があり、その主張の頃確定した点は認めるが、飯島佐内が応召復員した点は不知、清喜が本件田を飯島あきに転貸するについて原告主張のような一時転貸の特約があつたこと、その転貸借契約が合意解除されたことは否認する。飯島あきは昭和二十年十一月二十一日現在本件田につき転借権を有していたのであり、同人の遡及買収の請求は正当である。原告と飯島あきとの間の転貸借契約は期限の定のない通常の転貸借であり、原告主張のような内容の調停に代る裁判がなされたけれども、それは昭和二十年十一月二十三日以後のことに属し、同日現在における権利関係を左右するものではなく、その他自作農法第六条の二第二項所定中原告主張のような事由がない、従て前記あきの請求に基いて樹てられた買収計画には毫も違法の点がない。仮に原告主張のような瑕疵が存したとしてもそれが買収計画の取消原因となるかどうかは別論として少くとも右計画を当然無効ならしめる程の重大且つ明白な瑕疵ではない、以上の通りであるから右計画に基く買収処分は無効ではない。しかも又原告は前記田の従前の所有者でないから、右買収処分の無効確認を求める法律上の利益なく、この点からしても右請求は失当である。又売渡処分については飯島あきは昭和二十年十一月二十三日当時本件田につき転借権を有していたし、原告主張の転貸借契約は一時転貸借ではないこと前記の通りであり、又調停に代る裁判があつてもこのことからして飯島あきを売渡の相手方と定めたことを違法と断ずるわけにゆかない、結局原告主張のような違法は前掲売渡処分にも存しないのである。従て原告の本訴請求は凡て理由がない。」と述べた。(立証省略)